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最高裁判所大法廷 昭和23年(オ)9号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とし上告参加により生じたる費用は参加人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士清瀬一郎、上告人野沢良雄、同明野利吉各上告理由について。

法律は言葉ではなく、実体である。法律は、単なる形式の推理において発見会得せらるるものではなく、その真の実質の探求において把握理解せらるべきものである。そして、法制全体を広く深く体系的に究明することによつて、はじめて事態の実情に合致する正しき法律解釈は生れ出ずるのである。本件は、まさにかかる根本的な問題に触れている一つの事案である。

そこで、いわゆる追放に関する法制の根幹として考慮の中に入るべきものは、(一)連合軍総司令部発日本政府宛、昭和二一年一月四日附覚書(公務従事ニ適セザル者ノ公職ヨリノ除去ニ関スル件)(以下覚書と言う)、(二)昭和二二年勅令第一号(公職に関する就職禁止、退職等に関する勅令)(以下勅令と言う)(三)昭和二二年閣令内務省令第一号(昭和二二年勅令第一号施行に関する件)(以下施行令と言う)の三つである。さらに遡れば、昭和二〇年七月二六日のポツダム宣言第六項には「我等は、無責任なる軍国主義が世界より駆逐せらるるに至る迄は平和、安全及正義の新秩序が生じ得ざることを主張するものなるを以て、日本国民を欺瞞し世界征服の挙に出ずるの過誤を犯さしめるため者の権力及勢力は、永久に除去せられざるべからず」と規定している。日本は、同年八月一四日ポツダム宣言受諾の意思を国際的に表示し、九月二日降伏文書の調印が行われ同日指令第一号に基づき一般命令第一号が官報に公布せられた。そして、ポツダム宣言第六項を実行するため日本政府に対し追放の措置を命じたのが、一九項目に亘る覚書であり、この覚書の内容を国内法化したのが、勅令であり、又この勅令の施行細則を定めたのが、施行令である。この施行令第九条第四項においては、「第一項又は第二項の確認書は、前二条の規定による調査表に虚偽の記載があり又は事実をかくした記載があるときは、その効力がないものとする。調査表に記載されていない事由に因り確認書を有する者が覚書に該当する者と認められるに至つたときも、また同様とする。」と規定されている。そして、この規定の解釈如何が、実に本件の核心をなすのである。上告人側では、この規定を解して調査表にかかる不実記載があるときはこれに基づいた確認書は無効であり、これによる立候補は当然無効であると論ずる。成程条文の字句の上からは、そのように十分解せられるし又寧ろそう解釈するのが普通であるように思われないこともない。しかし、つぶさに法制の全体を組織的、体系的に考察する場合においては、到底かかる解釈を採ることは許されない。以下順次その理由を挙げて、これを論証するであろう。

一  公職追放は、ポツダム宣言に掲げられているところであり、軍国主義者その他好ましからざる人物の公職追放による精神的非軍国化政策は、武装解除、軍事施設の撤廃等による物質的非軍国化政策と共に、連合国最高司令部の占領統治としては最も重要な政策の一面であることは疑う余地もない。かくて、前記覚書は発せられ、ついで前記勅令及び施行令は公布せられた。そして、この覚書を履行するための機構として(以下地方公職の分を除く)中央公職適否審査委員会が設けられ、その報告に基づいて内閣総理大臣が「覚書に掲げる条項に該当する者としての指定」(勅令第三条第一項)すなわち「覚書該当者としての指定」(勅令第四条)(以下該当指定と言う)又は「覚書に掲げる条項に該当する者でない旨の確認」(施行令第八条第一項)(以下非該当確認と言う)をすることになつている。かくのごとく、追放は連合国最高司令官の承認の下に特殊の機関を設けられて内閣総理大臣が最高司令部と緊密な連絡の下に実施せられることが、その性資上要請せられている。これによつて、追放制度全体としての安定と調和と統一性が保たれ得るわけである。しかるに、上告人側のごとく施行令第九条第四項を解して調査表に「虚偽の記載があり又は事実をかくした記載があるとき」(以下不実の記載があるときと言う)は、確認書は当然無効であるとするならば、それは著しく前記追放制度の原理と抵触することにならざるを得ない。若し、その確認書無効という意義が確認そのものの無効をも意味するものならば、非該当確認は、該当指定と同様に中央公職適否審査委員会の報告に基づく内閣総理大臣の専権に属するが故に(施行令第八条第一項、第九条第一項第二項)、その確認の効力を否定することは、直接に前記追放制度の原理に反することとなる。確認を無効とすることは直ちに該当指定を意味するものではないから差支えないと論ずる者があるけれども、それは非該当確認が該当指定と同様に内閣総理大臣の専権に属することを看過した間違つた説である。次に若しその確認書無効という意義が確認の無効は生じないけれども確認書は効力を有しないという意味であるならば、それは極めて特異稀有な法律状態の発生を結果するものと言わなければならない。元来確認書とは、「覚書該当者でないことを証明する確認書」(勅令第八条第一項)の意義であつて、非該当確認に対し内閣総理大臣が交付する証明書である(施行令第九条第一項、第二項)。基本である非該当確認の効力を認めつつ、単にその証明書である確認書だけの効力を否定しこれを無効視し得るとなすがごときことは、基本である確認には関係なく証明書だけについて存在する瑕疵がある場合の外は法令に明確な規定がない限り容易に認め得られない特異変態的な法律状態である。広くわが法制全般について考えて見ても、かかる事例は殆んど類がないであろう。又追放法制における確認書の制度は、審査の結果非該当確認をうけた者に対し確認書を交付し、確認書を有する者は、爾後公職に就く場合においては、官吏たると、公吏たると、国会の議員たると、都道府県の地方長官又は議員たると、法令に基づく委員たると、特殊会社、営団又は特殊銀行の役員たると、報道機関の役員たると、有力な会社、金融機関その他の経済団体の役員たるとを問はず、言い換えれば公職の種類と地位を問はず、新に調査表を提出して審査を受ける必要はなく確認書の写をもつてこれに代えることができる仕組になつている(施行令第七条第二項)。すなわち、一度確認書を得た者はその写の提出によつてすべての公職に対する道が開かれているのであつて、確認書の効力は公職全般に及ぶものである。特に選挙だけの確認書又は官吏だけの確認書というがごとき部分的な確認書は、現行追放法制においては認められていない。そこで、上告人側の言うように確認書が無効であるとすれば、従つて選挙又は選挙管理委員会がその無効を認定し得るものとすれば局部的な仕事に従事する者が確認書の全般的効力を否定し得るという不合理な結果を生ずるし、又当該選挙の関係においてのみ確認書の効力を相対的に否定するものだとすれば、元来統一的、全般的な効力を認めた確認書制度を時と処に従つて扱者の主観によつて断片的に有効無効の取扱が対立併存し得る不安定な分裂的な不都合な結果を来たすことになる。その何れにしても、追放法制の趣旨に反することは明らかである。現に勅令第六条においては、「覚書該当者は、公選による公職については、その候補者となることができない。公選による公職の候補者について、第四条の指定があつたときは、その者は、当該候補者を辞したものとみなす」と規定してあつて、これらは何れも該当指定を受けた者に初めて適用があるのであつて、調査表に不実記載をした者に直ちに適用があるとは規定せられていない。しかのみならず、勅令の前身である昭和二一年勅令第一〇九号(後出)第六条第三項においては、「選挙長議員候補者たるものが覚書該当者なることを確認したるときは、其の者に係る届出又は推薦届出を受理することを得ず」と規定して、選挙長が単なる調査表の不実記載者について立候補届出を拒否し得ることを認めていない。そして、実際的の見地から言つても、調査表の不実記載による確認書の有効無効を選挙長に一々判断せしむることは、相当の難事業であつて選挙長に難きを強うるものであるばかりでなく、その運営について種々弊害を伴うこととなるであろう。

二  上告人側は、確認書無効論の根拠として覚書第一四項に「附属書一号所定の種類に該当する一切の者は、帝国議会における一切の選挙に係る地位に対する候補者たるの資格を剥奪せらるべきものとす。右の者一切は時期の如何を問わず地方長官又は市長の候補者たるの資格なきものとす」とあるを引用しているが、この規定はかかる一切の者は審査を経ずして当然に直ちにかかる取扱を受けることを定めたものではなく、引続いて規定されているように「日本帝国政府は右選挙に係る地位に対する候補者たるの資格剥奪実施の為所要の規則の発布、本指令に準拠して作成したる欠格者の種類の公告及本指令に依る欠格者に非ざる旨の各候補者毎の証明を含む措置を講ずべし」とされ、ただ該当指定及び非該当確認に関する立法的、行政的の措置を命じているに過ぎないのである。この規定を根拠として施行令第九条第四項につき確認書無効論を主張することは、非常な論理の飛躍があるばかりでなく、事物の実体の把握が十分でないように考えられる。調査表の不実記載があれば確認書は客観的に無効であるという論は、調査表の正確性保障のために不実記載の制裁として当然に確認書を無効ならしめる必要があり又施行令第九条第四項はこの趣旨を定めたものであると説くのである。しかし、これは当らない。覚書第一七項には「本指令所定の一切の調査表、報告書若は申請書の故意の虚偽記載又は此等の中に於ける充分且完全なる発表の懈怠は降伏条件の違反として、連合国最高司令官之を処罰することを得べし。更に、日本帝国政府は、右の如き故意の虚偽記載又は不発表に対し、日本裁判所に於て日本法律に依り適当なる処罰を為すに必要なる一切の規定を為し且必要なる起訴を行うものとす」と規定して、調査表の正確性保障のために不実記載の制裁として刑罰法規を制定すべき旨を命令している。すなわち、覚書は調査表の不実記載に対しては、間接的な刑事制裁を科する立法をなすべきことを要求してはいるけれども、そのいずこにも直接的な実体的制裁を科する立法をなすべきことを要求してはいない。そして、この要求に基づいて、勅令第一六条には「左の各号の一に該当する者は、これを三年以下の懲役若しくは禁錮又は一万五千円以下の罰金に処す」と定め、その第一号には「第七条第一項の調査表の重要な事項について、虚偽の記載をし又は事実をかくした記載をした者」と定めて間接的な刑事制裁規定は設けられた。これに反し、直接的な実体的制裁規定は覚書の要求なきがままに勅令のどこにも(第一六条第二項、第三項を除く)設けられなかつたのであるが、これがむしろ当然である。既に勅令の中には何等独立した実体的制裁の規定がないのに拘わらず、単に勅令の施行細則であるに過ぎない施行令第九条第四項のある不完全な表現をもつて、独立した確認書無効という強大な厳しい直接的な実体的制裁を定めたものであるとは、到底首肯することができない。

三  なお、仔細に勅令第一六条と対比して考えてみれば、確認書無効論の採るべからざることは、比較的容易に理解され得るであろう。同条第一項では調査表の不実記載に対し刑罰制裁を科すると共に、同第二項においては「前項により刑罰に処せられた者で覚書該当者以外のものは、他の法令によるの外、その現に占める公職を失い、又はあらたに公職につくことができない」と定め、同第三項においては「前項の者は、公選による公職の候補者となることができない。現にその候補者たる者は、候補者たることを辞したものとみなす」と定めている。これは、有罪判決の確定に伴い自働的に直接的な実体的制裁が定められたものと見ることができる。これによると、調査表の不実記載に対して有罪判決が確定したときに、初めて公選による公職の候補者となることができないとされているに拘わらず、確認書無効論ではこれによる立候補は当初から無効であると説く。しかし、かかる解釈は勅令第一六条第二項、第三項と矛盾することは明らかである。しかのみならず、勅令第一六条第一項第一号では「調査表の重要な事項」についての不実記載に限定しているのに反し、施行令第九条第四項では調査表の不実記載が「重要な事項」に限るか否か又はいかなる事項に限るかについては、何等の規定をなしていない。これはすなわち、同項の規定は確認書無効というような厳しい実体的制裁を定めたものでないことが窺い知られる一つの資料である。そこで、確認書無効論者は何とか不実記載の対象たる事項をどこかに限定しなければ恰好がつかなくなるので、少数意見では調査表に記載することを要求されている事項に限ると言い、明野上告人は施行令第九条第四項も重要事項に限ると言い、野沢上告人は「基準によつて要判定事実と定められたもの」に限ると言い又「基準に示された追放の及ぶ範囲及び程度の事実即ち該当、非該当が問題とされる性質の事実」に限るとも言い、清瀬上告代理人は「何人も避け難い僅な誤記であるとか、極めて軽易な且又短期間の一時的職務であるとか言つた事に関する些細な過誤は、先づ常識上不問としても、これという際立つた箇条について」不実記載がある場合を指すと言い、原判決は「若し真実の記載がしてあつたならば覚書該当の指定をまぬかれないはずだという性質の事実」に限ると言つている。全然十人十色の観があると共に、恰もよく確認書無効論の弱点を露呈している。施行令第九条第四項には別段「重要な事項」に限る字句がないのに、かかる特別な字句の厳存する勅令第一六条第一項第一号と同様に取扱わんとするのは、この点でも確認書無効論が解釈として不合理だということを示していると言うことができる。ましてや、追放法制の沿革から言つても、昭和二一年勅令第一〇九号の罰則第八条は調査表の不実記載について重要な事項という制限をおかなかつたのを、現行勅令の罰則第一六条は調査表の不実記載について「重要な事項」という制限を加えたのであり、又現行勅令においても或は「重要な事項」を意識的に必要とし(勅令第一六条第一項第一号、第三号)或はこれを意識的に不必要としている(同第五号)点から見れば、かかる字句のない施行令第九条第四項を特に「重要な事項」に限ると解することは、一層不都合のように考えられる。それかといつて、少数意見その他のごとく、例へば調査表に記載することを要求されている事項に限るとすれば、それは非常に広範な相当些末なことにまで及び然も些事なりとして故意に記載しなかつた場合でも確認書無効を生ずることとなり実際の現実問題としても到底採用することを許されない議論である。かかる些末な事項の不実記載が即時に確認書無効を来たすようでは、一層勅令第一六条第二項、第三項と均衡がとれなくなるのは必然である。又施行令第九条第四項が調査表の不実記載に対し確認書無効を定めたものとすれば、追放法制の上において調査表の不実記載と同等の価値を有する不実資料の提出、不実説明又は報告書の不実記載(勅令第一六条第一項第三号、第五号)に対しても確認書無効を定めていなければ、均衡がとれぬ訳であるが、かかる規定は全然存在していない。この点においても、確認書無効論が解釈として採るべからざることを知るに足ろう。

四  上告代理人は、確認書の末尾に「備考」として「この確認書は、本人の提出に係る調査表に虚偽の記載があり若しくは事実をかくした記載があつたとき、又は調査表に記載されていない事由に因り覚書に該当する者と認められるに至つたときは、その効力がないものとする」という施行令第九条第四項と同様の字句が記されることになつているのを理由として、調査表提出者自身に責任と危険を負担せしめている一資料となすのである。しかし、この備考は、後にも述べるごとく、確認書と雖も終局的の確定不動ないわば一事不再理的な効力があるものでない旨を注意したまでのものと解すべきである。調査表提出者自身に上告人側の主張するような厳しい危険と責任-確認書無効-を負担せしめるものであるならば、それこそかかる注意書は事後の確認書の中に置くよりはむしろ事前の調査表の中に予め掲げて置くことが必要であり又当然であると言わなければならぬ。そこで、調査表については、覚書第一〇項は、日本帝国政府は「附属書B号所定の調査表」を作成しこれを配付すべきことを訓令している。そして、附属書B号調査表の冒頭には「遺漏又は虚偽若は不完全の記載は、犯罪を構成し、訴追及処罰を受くるに至るべし」との旨を記載し、又同表末尾署名の直前には「本調査表の記載は真質なり、而して余は遺漏又は虚偽若は不完全の記載は犯罪を構成し、訴追及処罰を受くべきものと諒解す」との旨を記載すべきことを命じている。これを承けて、施行令第七条で定められた調査表の様式は、記載上の一般的注意として冒頭七に「この調査表の重要な事項について虚偽の記載をし又は事実をかくした記載をした者及び調査表を徴せられて提出しない者は昭和二二年勅令第一号第一六条の規定により三年以下の懲役若しくは禁錮又は一万五千円以下の罰金に処せられ、且つ刑に処せられた者は、他の法令による外、その現に占める公職を失い、その後公職に就くことができない。又公選による公職の候補者となることができず、現にその候補者たる者は候補者たることを辞したものとみなされる」と記載し、末尾に備考として「この調査表の記載は真実であり且つ完全であることを確言する。私のこの調査表の重要な事項について虚偽の記載又は事実をかくした記載をし、又調査表を徴せられて提出しないときは、昭和二二年勅令第一号第一六条の規定により、犯罪を構成し三年以下の懲役若しくは禁錮又は一万五千円以下の罰金に処せられ、且つ刑に処せられた者はその現に占める公職を失い、その後公職に就くことができなくなり、又公選による公職の候補者となることができず、現に候補者たる者は候補者たることを辞したものとみなされることを諒承する」と記載し、その直後に署名捺印する形式を採つている。さらに、追放法制調査表様式の沿革を見ても、昭和二一年内務省令第二号(同年一月三〇日)の調査表様式においては、ただ末尾に「本書面の記載は真実なり。虚偽の記載又は事実を隠蔽したる記載なきことを確認す」とある直後に署名することとなつていた。次に昭和二一年閣令内務省令第一号、同年勅令第一〇九号(就職禁止、退官、退職等に関する件)施行に関する件(同年二月二八日)の調査表の様式においては、(イ)昭和二一年内務省令第二号第三条の確認書を有する者については、単に末尾に「内務大臣に提出したる右書面の記載及前記軍務の経歴の記載は、真実にして虚偽の記載又は事実を隠蔽したる記載なきことを茲に確認す。若し、虚偽の記載又は事実を隠蔽したる記載ありたるときは、犯罪を構成し、訴追及刑罰を伴うものと諒承す」とあるのに引続き署名することになつており、又(ロ)従来確認書を有せざる者については、調査表の冒頭七に「虚偽の記載を為し又は事実を隠蔽したる記載を為したる者は、昭和二一年勅令第一〇九号(……)に依り、一年以下の懲役若は禁錮又は三千円以下の罰金に処せらるべし」と記載し、且つ末尾に署名の直前に「本調査表の記載は真実なり。而して余は虚偽又は事実を隠蔽したる記載は、犯罪を構成し、訴追及処罰を受くべきものなることを諒承す」と記載することになつていた。かかる沿革を経て、上述するような現行の調査表様式が定められ、その不実記載に対する注意及び警告としては、刑事制裁及びこれに伴う自働的な実体的制裁が、親切入念まことに至れり尽せりの観をもつて掲げられているのであるが、これに反して上告人側の主張する確認書無効というがごとき独立な厳しい実体的制裁は、移り変つたどの調査表様式のどこにも要求されてはいないし、又現に記載せられてもいない。この点から考えても、調査表の不実記載が確認書無効を来たすという議論の誤りであることが、容易に理解せられると思うのである。果してそうであるとすれば、一体施行令第九条第四項の意義は、いかに解すべきであろうか。先ず、前段の「虚偽の記載があり又は事実をかくした記載があるとき」というは、故意による不実記載の場合を意味するものと解すべきである。なぜならば、覚書第一七項は故意の不実記載について罰則規定を設くべきことを命じ、これに基づいて制定された勅令第一六条第一項第一号は全然前記第四項前段と同じ字句を用いて故意の不実記載の意味を表現せしめているからである。この前段の規定は、最初は昭和二一年内務省令第二号衆議院議員の議員候補者たるべき者の資格確認に関する件(同年一月三〇日)の中に設けられたものであつて、その第三条第二項においては、「前項の確認書は、前条の規定に依る本人の提出に係る書面に虚偽の記載又は事実を隠蔽したる記載ありたるときは、其の効なきものとす」と規定し、前記第四項前段とほぼ同様の内容をもつているに過ぎなかつた。それが、施行令制定の際第九条第三項(後に改正現行第四項)前段として取入れられ、同時に後段が追加せられたものである。該前段は、調査表の不実記載のために確認書無効を来たすものでないことは、上述のとおりであつて、その趣旨とするところは、非該当確認を受け確認書を入手しても調査表に不実記載があれば、いつでも再審査の結果該当指定を受け確認書無効を来たすことのあるべき旨を警告し、かかる意義と程度において調査表の真実性を保障する一手段として設けられた規定である。言いかえれば、一面においては非該当確認は判決のように一事不再理的な終局的な確定効力を有するものではなく、調査表に不実記載があれば再審査によつて該当指定を受け一旦得た確認書が無効になる危険が常にあることを注意すると共に、他面においてはこれによつて調査表の記載を真実に合致せしむる一保障とするにあるものと解すべきである。これだけでは調査表の真実性の保障としては固より十分でないが、上述のごとくさらに勅令第一六条第一項第一号の刑罰制裁があり、その上同第二項第三項に定める自働的、附帯的の実体的制裁が加えられ、保障の力はまことに強大である。この外になお、上告人側主張のように確認書無効というごとき厳しい実体的制裁が科せられるものとすれば、それは却つて徒らに混乱と不安定と不統一を招来し追放法制全体の所期に反する結果となるべきことは、既に詳述したとおりである。かくては、角を矯めようとし牛を殺すの類ではなかろうか。

そこでさらに、前記第四項後段の意義いかんと言うに、該後段は前述のごとく施行令制定の際に新に附け加えられた規定であるが、これは恐らく前段の規定で故意による不実記載の場合には確認書に一事不再理的な効力がない旨を言い放しにしただけでは(前記昭和二一年内務省令第二号第三条第二項がそうであつた)、それ以外の不記載の場合には確認書に終局的な確定効力が生ずるという反面解釈が成立する疑のあることを配慮して「調査表に記載されていない事由により確認書を有する者が覚書に該当する者と認められるに至つたときもまた同様とする」との規定を追加したものと考えられる。ここに「調査表に記載されていない事由」とは、前段で定めた故意による不実記載の場合が除外せらるべきは当然であり、従つて本来調査表に記載すべき事項が過失により若しくは過失なくして記載されていなかつた事由及び本来調査表に記載することを要しないため記載されていなかつた事由を総べて含むものと解せられる。兎に角、過失の場合でも又過失のない場合でも再審査の結果非該当確認が取消されて該当指定を受けると確認書の効力が失われることのある旨を注意的に規定したものと解すべきである。元来非該当確認は、後日再審査の結果その効力が動かされるか又は一事不再理的な確定効力を有するかは、一般国民から見れば必ずしも明白疑のない程の問題ではない。なぜならば、該当非該当の決定は一面行政的であり又他面司法的でもあるからである。そこで、覚書第一六項においては「罷免又は就職拒否に関し及選挙に係る地位に対する候補者たるの資格剥奪に関し、日本政府の講じたる措置は本司令部により審査せらるべく且取消さるることあるべし」と定めている程であるから、追放法制の中には非該当確認が終局的効力を有するものでない趣旨を規定することは、必ずしも不必要な自明のことを規定したものと非難するに当らない。要するに、前記第四項前段(及びその前身である昭和二一年内務省令第二号第三条第二項)では、確認書を得ても不実記載があるときは再審査で取消される虞が多分にあるから終局的な効力はないことを明らかにして兼ねて調査表の不実記載を阻止しようと企画したものであり、後段では調査表の不記載について過失があつても又なくても再審査されることはあり該当指定を受けると確認書の効力がなくなる旨を注意的に規定したものと解すべきである。それ故、前段の場合でも後段の場合でも、確認書の無効の点について論ずれば、該当指定があつて従前の非該当確認が効力を失つた当然の結果として、その証明書である確認書が無効となるに過ぎないと言わなければならぬ。この点は両者全く同一である。かく解すれば、確認書無効がいつから生ずるかと言う問題も極めて明白であつて、該当指定が効力を生じたときから将来に向つて確認書無効を来たすものであると即座に答えることができる。けだし、一般的に言つても、行政処分の効力は不遡及が原則であることは当然であり、又特に該当指定についてもその効力の不遡及は勅令第三条ないし第六条、施行令第五条等から容易に窺い知ることができる。

上述の各理由を綜合すると真に調査表の正確性、真実性を強く保障するものは、勅令第一六条であつて、施行令第九条第四項は調査表の不実記載のために確認書無効の効果を来たすものでないという結論に到達せざるを得ない。それ故、上告人側の確認書無効論には遂に賛同することができないと共に、原判決が前記第四項前段の解釈として「もし真実の記載がしてあつたならば覚書該当の指定をまぬかれないはずだという性質の事実」に関し調査表に不実記載があるときは、確認書無効を来たすという見解にも到底同意することはできない。しかしながら原判決は結局において、立候補届出に際し館哲二がその写を提出した確認書は有効であり、立候補届出は何等要件に欠くる所はなく、同人は適法な候補者であつたことを認定して上告人の請求を棄却したものであるから、結果においては正当である。

上告代理人上告理由第一点及び第三点の理由なきことは、上述するところにより明かになつたと思う。同第二点は、「仮りに原判決の如き考え方を許すとするも」という前提の下になされているが、当裁判所は上述のようにかかる原判決の考え方を是認しないのであるから、これを上告の理由として採用することを得ない。同第四点については、論旨のような事実があつたとしても、上述した当裁判所の見解に従えば、特に判断又は審理を尽さなければならない事項に該当するものでないから、この点の上告理由も採用することができない。

同第五点において論旨は、原審において検事に期日を告知せず従つて検事は弁論に立会わなかつたことをもつて、手続規定の違反であると主張するのであるが、本件訴訟は所論のように地方自治法第六六条第四項の訴訟であるから、同法第六九条の適用により検察官をして口頭弁論に立会わしめることができるのであつて、立会わせるか否かは裁判所の自由裁量に属するものと言うべきである。従つて、この点の上告理由も採ることができない。

上告人野沢良雄、同明野利吉の上告理由は、当裁判所の上述した見解と異る独自の見地に立つて委曲を尽して論弁しているけれども、その理由なきことは、これ迄詳述したところによつて明らかに論証せられたものと信ずる。詮ずるに、原判決の判示した法律見解の中には是認すべからざる箇所も存在するが、前述のごとく結果においては事案の判断として、正当なものであり、上告理由は何れも理由がないのであるから、本件上告は棄却せらるべきものである。

裁判官沢田竹治郎、同斉藤悠輔の意見は次の通りである。

(一)本件において問題となつている昭和二二年閣令内務省令第一号(以下閣省令第一号と略称する。)第九条第四項の規定は当初からかような一般的の規定が設けられたのではなく、もともと選挙に関する同二一年一月三〇日内務省令第二号(以下省令第二号と略称する。)第三条第二項所定の「前項ノ確認書ハ前条ノ規定ニ係ル本人ノ提出ニ係ル書面ニ虚偽ノ記載又ハ事実ヲ隠蔽シタル記載アリタルトキハ其ノ効ナキモノトス」との規定が改正されたものである。だからこの沿革を無視して初めから大袈裟に法律乃至確認の一般論から論じようとする多数説は既に当初から法令の明文を抹殺する遁辞を前提とする誤つた立場をとるものである。そしてこの改正の第一点はもと旧規定は衆議院議員選挙の候補者が届出の際に添附すべき確認書の効力についての規定であつたのを広く公選による公職の候補者が届出の際に添附すべき確認書及び公職(公選によらない公職)に在る者又は公職に就こうとする者で覚書に該当しないと確認された者に交付された確認書の効力についての規定に拡張されたこと、尚第二点は旧規定は単に調査表に虚偽の記載又は事実を隠蔽した記載があるとき、その確認書の効力がないというに過ぎなかつたのを、この外調査表に記載されていない事由により確認書を有する者が覚書に該当する者と認められるに至つたときも、また同様とするという規定が附加されたことである。そこでまずこの省令第二号第三条第二項の規定が設けられた立法理由を按ずるに、それはいうまでもなく昭和二一年一月四日連合国総司令部発日本国政府宛覚書(公務従事ニ適セサル者ノ公職ヨリノ除去ニ関スル件以下単に覚書と略称する。)第一四項にある指令の趣旨を忠実厳正に実行するために外ならぬ。即ち終戦後始めて行わるべき衆議院議員の総選挙においては、覚書該当者でない者に限つて議員候補者たる地位資格を与えるが、そうでない者には絶対に与えないことにしなければならぬ。このためには選挙長は候補者届(自ら候補者になろうとする者又は他人を候補者としようとする者がする候補者届を含む以下同断)に候補者たる者が覚書に該当しない者であることの証明書が添附してないときは候補者届を受理しないとするのが何よりの捷径である(昭和二一年勅令第一〇九号第六条第二項及同二二年勅令第一号第八条第三項参照)。ところが候補者たらんとする者が果して覚書に該当しない者であるかどうかの審査は本人の提出した調査表を主要な資料としてされるのが原則である(昭和二二年勅令第一号第七条、第七条ノ二、第七条ノ三及び閣省令第一号第八条第二項、第三項参照)から調査表に記載すべき事項を全部しかも正確に記載されることが調査確認の要件であつて、若し調査表の記載が不完全不充分であるときは、その調査表を主要な資料として審査して交付する確認書はその者が覚書に該当しない者だとの証明力をもつものとはいえないわけである。だから、確認書が証明力をもつためには是非とも調査表の記載が充分且つ完全なものであることを不可決の条件とし若し故意又は懈怠によりかかる記載がなされなかつたときはその確認書も当初から効力のないものとする必要がある。そして又かような調査表を提出した者には候補者としての地位資格を絶対に与えないことが覚書第一四項の指令を忠実厳正に履行する所以でもある。これこの内務省令第二号第三条第二項の規定が設けられた立法理由であつて、そのことは又同省令の前文「昭和二〇年勅令第五四二号ポツダム宣言ノ受諾ニ伴ヒ発スル命令ニ関スル件ニ基ク衆議院議員ノ議員候補者タルベキ者ノ資格ニ関スル件左ノ通リ定ム」第一条に「次ノ衆議院議員ノ総選挙ニ衆議院議員選挙法第六七条第一項又ハ第二項ノ規定ニ依ル議員候補者ノ届出又ハ推薦届出(以下届出又ハ推薦届出ト称ス)ヲ為サントスル者ハ内務大臣ニ対シ議員候補者タルベキ者ガ昭和二一年一月四日附連合国最高司令官覚書公務従事ニ適セザル者ノ公職ヨリノ除去ニ関スル件ニ掲グル条項ニ該当スル者ニ非ザル旨ノ確認ヲ求ムルコトヲ得」第二条「前条ノ確認ヲ求メントスル者ハ速ニ別記様式一ニ依リ議員候補者タルベキ者ノ経歴等ヲ記載セル書面四通ヲ添ヘ其ノ者ノ住居地ヲ管轄スル地方長官ヲ経テ内務大臣ニ其ノ旨ノ申請ヲ為スベシ」及第三条「前条ノ申請アリタル場合ニ於テハ内務大臣ハ内閣総理大臣ト協議シ議員候補者タルベキ者ガ第一条ノ覚書に該当スル者ニ非ザル者ナルコトヲ確認シタルトキハ別記様式二ノ確認書ヲ交付ス、前項ノ確認書ハ前条ノ規定ニ依ル本人ノ提出ニ係ル書面ニ虚偽ノ記載又ハ事実ヲ隠蔽シタル記載アリタルトキハ其ノ効ナキモノトス」の文詞から見ても疑うの余地がない。さればこの立法趣旨は閣省令第一号第九条第四項の立法にあたつて何等か変更されたかどうかが検討されなくてならぬ。なるほど、閣省令第一号第九条第四項で効力のないものとされる確認書の範囲は省令第二号第三条第二項よりも広くなつて公選による公職の候補者たらんとする者の請求により又その他の公職に在る者若しくはその公職に就こうとする者で覚書に該当しないと確認された者の請求により交付された確認書にも及んでいる。そして確認書の効力がないものとする事由にも範囲が広められて、調査表に記載されてない事由で確認書を有する者が覚書に該当する者と認められるに至つたときが加えられている。しかし、かような点において改正がなされたからといつて、完全でない調査表を資料として審査をしてなした確認は、当初からその有効条件を欠いているということから、確認書は当初から効力がないという理論と、不完全な調査表を、それが意識してか、しないでかはともかく、提出して確認を僥倖しようとした者や、さような意思がなかつたとしても結果からはそれと同一に見られる者に公選による公職の候補者たる資格を認めることは、覚書第一四項の趣旨に違背するものだという条理とを否定する理由はどこからもでてこない。然るに被上告人からは「確認書が厳密な形式で発給される国の公文書であり、国が特定人の非該当者なる旨を認証したものであるから、一旦発給された確認書はその効力が確定的であり終局的なものと誤解される虞がある。これは一般常識として当然の懸念である。又一面資格審査の最も基本的な資料である調査表の記載は努めてこれを精確ならしめる必要がある。殊にその点に関して予め作成者に深甚なる注意を喚起して置き苟も記載の不実や遺漏なきを期することは最も必要である。この両面の要請に応ずる強い必要がありそのため閣省令は特にその趣旨を明にせる注意規定を設けた、それが即ち閣省令第一号第九条第四項及び同令附則別記様式(二)備考の記載だとする」解釈が主張されている。しかし、元来覚書に該当するとかしないとかの決定、即ち指定又は非該当の確認という処分は、公職資格審査委員会という合議制の行政機関の審査決定に基づいてされるものではあるが、結局内閣総理大臣又は都道府県知事(以下大臣又は知事と略称する。)という単独制の行政機関がする処分であり、また争訟の判断ではなく、公私の権利を剥奪し又は認容するいわゆる創設処分に属するものであるから、これ等の処分に当然に一事不再理の原則が適用されることはあり得べからざるところである。だから確認書の効力は確認が再審査をされて無効となることがあるというような無用の注意的な規定をれいれいしく閣省令で定めるなどということは考えられないところである。もし仮りにさような注意的な規定だとすると、これは間違つた注意といわなければならぬ。蓋しこの規定のために確認の再審査は調査表に虚偽の記載又は事実をかくした記載があつたときか若しくは調査表に記載されていない理由で確認書を有する者が覚書該当者と認められるに至つたときの他はなし得ないと誤解せしめる恐れがあるからである。そして既に調査表に記載されている事由により確認書を有する者が覚書に該当する者と認められるに至つたときについては何等の規定がないところから見ても左様な注意的の趣旨でないことは明らかである。更に又閣省令第一号第九条第三項の規定(同趣旨の知事の交付する確認書の備考(二)参照)であるが、同項にも「その効力がないものとする」という文詞が用いられている。いかに強弁をたくましくする者でも、この規定が知事の交付した確認書の効力が大臣の指定すべき公職や候補者に関しては通用しないという趣旨の規定だということはこれを認めなくてならぬであろう。しかれば同じ条文の第三項と第四項とにある「その効力のないものとする」という規定を解して第三項は当初から法律上確認書としての効力を否定するという趣旨の規定であるが第四項はそれとは全く異つた一事不再理の原則の適用がない、将来指定されると確認書は効力がないということの注意的な趣旨の規定だと解すべきだという所説のいかに不合理なものであるかがわかる。次にこの規定を所論のように単に確認処分は一事不再理の原則が適用されぬものだとの注意的な規定だとすると、同時にこの規定を所論のように調査表に虚偽の記載や事実をかくした記載のないように予め作成者に深甚の注意を喚起するために設けたものだということは矛盾撞著である。なぜなれば調査表を充分且つ完全に記載するように作成者に注意を喚起するには調査表の記載が充分且つ正確でないときは交付された確認書は効力がないとかその他少くとも何等かの不利益が作成者に生ずることを予告するのが当然の条理であるのに、調査表に虚偽の記載や事実をかくした記載をしても再審査の結果作成者が覚書該当者と指定される迄は何等の不利益が生じないといつては注意を喚起することにはならぬからである。即ちこの規定を一面には確認には一事不再理の原則の適用のないという単純な注意的規定だということが正しいとしたら、この規定を以て同時に調査表作成者に虚偽の記載や事実をかくした記載をしないようにとの単純な注意的規定だということは誤りであり又この規定が後の意味の注意的規定だということが正しいとしたら前の意味の注意的規定だということは容認される余地がない。しかのみならず、覚書第一七項と昭和二二年勅令第一号(以下勅令第一号と略称する)第一六条の規定は不充分不完全の調査表作成者に対して厳重な処罰を予告して深甚な注意を喚起しているのであるから、これ以外に作成者に調査表の記載について注意を喚起する規定を必ずしも必要とはしない。若しこれ以外に有効に注意を喚起する規定を設けるとしたら、閣省令第一号第九条第四項のような不利益を現実に作成者に与えることを予告するのが当然であらねばならない。要するに被上告人の主張する解釈は注意的規定の意味をどちらにしても根拠のないものでありしかも二者は両立しないものである。しかるにこの被上告人の解釈を勅令第一号第一六条の罰則の規定を引用して支持せんとする説がある。即ち調査表に重要な事項について、虚偽の記載、事実をかくした記載をした者が処罰されると、たとい確認書の交付を受けて候補者となつていても候補者を辞したものとみなされる(第一六条第三項後段)のであるから、調査表に虚偽の記載、事実をかくした記載をした場合に別にその確認書の効力をないものとするには及ばないというにある。なるほど調査表に記載すべき重要な事項について虚偽の記載又は事実をかくした記載をしたかどで処罰されると、たとい、覚書に該当する者として指定されなくても、その以後現に占めている公職を失い、又あらたに公職につくことができないし公選による公職の候補者になることもできない、現に候補者たる者はその候補者たることを辞した者とみなされる。かような厳重強烈な効果を生ぜしめるのは調査表の提出者がその記載を充分且つ完全にすべき法令の義務を怠つた責任を問うことが直接の目的でしかも覚書第一七項の趣旨に則り調査表の記載を充分且つ完全にさせようとするのが根本趣旨であることはいうをまたぬ。ところがかように調査表の記載を充分且つ完全にさせようとして峻厳な処罰をもつて臨んでも、これを無視して、しかも重要な記載事項について虚偽の記載又は事実をかくした記載をしたような不都合な者があつた場合に違反者が刑を課せられて以後始めて公職から除去されるということだけで覚書第一四項の趣旨が徹底するであろうか。換言せばかような不都合な者でも確認書の交付を受けてから、処罰が確定するまでの間なら、公選による公職者の候補者たる資格を取得し選挙に参加し、当選者となり、公職に就くということがあつても覚書第一四項の趣旨に反しないであろうか。覚書第一四項には明らかに「右ノ者一切ハ時期ノ如何ヲ問ハス地方長官又ハ市長ノ候補者タルノ資格ナキモノトス」といつている。処罰された者は覚書にいわゆる「右の者」には字義通りにはあたらぬかもしれぬが、覚書にはかような処罰を受けた者には処罰の前後を問はず一刻一瞬といえども知事や市長の地位に就いたり当選人となつたりすることを許容しないのはいうまでもないことであり、候補者となつて選挙に参加することをも絶対に容認せぬ精神だと解すべきでなかろうか。若しそうだとしたら、重要な記載事項について虚偽の記載や事実をかくした記載をした者には確認書を交付しても当初から候補者の資格を認めないことにしなければならぬ。それには確認書の効力を当初からないものとするということが当然に必要となつてくる。ところがそれには確認処分を取消すというのが正式なやり方であろうが目前に迫つた選挙の期日迄に一々確認処分をした大臣や知事が改めてこれを取消すという処分をすることは時間の関係上事実不可能といわなくてならぬ。されば他の方法で確認書の効力を当初からないものとしなくてはならぬ。しかるに勅令第一号第一六条第三項の効果は処罰の確定したとき以後に生ずるものであるからこの規定では確認の効力を当初からないものとする必要が充たされない。それがために閣省令第一号第九条第四項の規定を必要として制定されたのである。だから勅令第一号第一六条第三項の規定があるから閣省令第一号第九条第四項の規定は必要がないという説はあたらない。又「勅令第一号第一六条の規定は重要なる事項について虚偽の記載又は事実をかくした記載をした者に限りて処罰をしその者を公職から除去するにとどまるのに閣省令第一号第九条第四項は重要でない事項についての虚偽の記載又は事実をかくした記載をした者でもその者の受けた確認書を無効とするというのは彼是権衡がとれぬといわなくてはならぬ。この点からしても右第九条第四項の効力のないものとするというのは一事不再理の原則の適用がないか又は調査表には虚偽の記載や事実をかくした記載をしないようにとの注意的規定と解するのが相当だ」との説をきくが右第九条第四項の規定は単に確認書の効力をないものとしてその結果確認書を有する者に当該選挙の候補者たる資格を認めないというにとどまつてその者の現に占めている公職を失わしめるものでもなく改めて完全な調査表を提出して確認を求めることを禁止するものでもない。これに反して処罰されると前述のような効果が生ずる外に再び完全な調査表を提出して確認を求めることはできないこととなるのである。かように処罰された場合の公職に関する効果に比して、確認書を無効とする場合の公職に関する効果はその範囲において遥に狭少でありその程度においても非常に軽微であつて多数説の強いて誇張するように「強大な厳しい直接的な実体的制裁」ではないから彼是権衡がとれないとはいえない。

又多数説では、上告人側の言うように確認書が無効であるとすれば従つて選挙長又は選挙管理委員会がその無効を確認し得るものとすれば局部的な仕事に従事する者が確認書の全般的効力を否定し得るという不合理な結果を生ずるし、又当該選挙の関係においてのみ確認書の効力を相対的に否定するものだとすれば、元来統一的全般的な効力を認めた確認書制度を時と処に従つて取扱者の主観によつて断片的に有効無効の取扱が対立併存し得る不安定な分裂的な不都合な結果を来すことになるというのである。しかし選挙長が確認書の効力を無いものと扱つた場合には確認書を有する者はこれを違法なりとして選挙又は当選の効力についての異議、訴願、訴訟によつてこれを争い得るのは勿論公選によらない公職に就こうとする場合にその確認書の写を調査表に代えて提出することは何等さしつかえない。只この場合に提出をうけた側においても閣省令第九条第四項前段によつて効力のないものと認めたなら更に完全な調査表を提出せしめて大臣又は知事の再審査の結果を待つて公職に就かしめるかどうかを決することができるのは条理の当然である。しかし事実上は提出を受けた側において確認書を無効のものでないと扱うこともないとは限らないであろう。(無効の原因たる事実がないとしてか若しくはその点に気がつかなくて)だから確認書の効力の否定は相対的のものとなる結果は理論上認めなくてはならぬが、実際上は調査表に虚偽の記載又は事実をかくした記載があるとか、殊に確認書を有する者が調査表に記載されてない事由で覚書に該当するものと認められるに至つたとかというような事実は特別の場合でなくては選挙の関係では認められ他の関係では認められないというようなことがざらに起るものではない。世間は案外にせまいものであつて、その事実は喧伝され問題とされて同じ確認書が選挙の関係では無効のものと扱われながら他の公職の関係では無効のものと扱われないというようなことは起らないといつてよい。又よしや多少さようなことが起つて不合理の結果が生じても、そのことのために、覚書第一四項の精神に反する結果を容認するわけにはいかぬことは明らかなところである。

又多数説では覚書第一七項を引用して調査表の正確性保障のために不実記載の制裁として刑罰法規を制定すべき旨を命令しているが、直接的な実体的制裁を科する立法をなすべきことを要求していないにもかかわらず、単に勅令の施行細則であるに過ぎない施行令第九条第四項のあの不完全な表現をもつて、独立した確認書無効という強大な厳しい直接的な実体的制裁を定めたものであるとは、到底首肯することができないというのであるが、調査表の重要事項について虚偽の記載又は事実をかくした記載をした者に、刑事制裁以外のいわゆる実体的制裁を課することは覚書第一七項では要求していないと仮定しても、かような制裁を課する規定が、覚書の趣旨を実施するために必要である限り、これを設けることは毫も怪むに足らぬ。このことはいわゆる直接的な実体的制裁の規定としか考えられない規定が現に勅令第一号第一六条第三項、第四項に明定されていることに鑑みても明らかであるし、もともと覚書第一七項は調査表の記載についての法令違背に対する刑事制裁以外の制裁を禁止するものでないと解するのが当然であることからも肯認されなければならぬ。又確認書を無効とすることをもつて強大な厳しい直接的な実体的制裁だというは誇張に失するものであることは前段に説明した通りであり、この閣省令第九条第四項の規定は覚書第一四項の趣旨に従つて設けられた勅令第一号第八条第一項の規定を意義あらしめるために缺くことを得ない規定であつて、これと同趣旨の規定である内務省令第二号第三条第二項がポツダム宣言ノ受諾ニ伴ヒ発スル命令ニ関スル勅令に基づいて制定されたものであることと、閣省令第一号に勅令第一号施行に関するものではあるがその第一条によると覚書該当者として指定すべき基準を別に勅令第一号による委任によつてと断ることなくして規定していることとを綜合すると、この閣省令第一号はその本質において覚書で命令されている事項を実施するために制定せられたる命令という本質を具有していてこの限度においては単純な勅令の施行細則的の効力しかないものであると解するのは誤りである。又多数説では、調査表の不実記載に対しては確認書を無効と定めたものとすれば追放法制の上において調査表の不実記載と同等の価値を有する不実資料の提出不実説明又は報告書の不実記載に対しても、確認書の無効を定めていなければ均衡がとれぬ訳であるが、かかる規定は全然存在しない。この点においても、確認書無効論が解釈としては採るべからざることを知るに足ろうというのであるが、提出された資料、報告書又はなされた説明の内容は、調査表と異なり、一般に公表されないし、選挙長の手許に報告もされない現行制度の下ではかような資料報告又は説明中に故意又は過失でした不実の記載や説明があつたかどうかを選挙長が調査認定することは不能である。だから、かような審査資料中の事由をもつて、確認書を効力ないものと規定しても、この規定は結局適用不能に終り空文に帰することは理の当然であるから、閣省令第九条第四項にかような調査資料中の不実の記載や説明を、確認書の効力をないものとするという原因として規定しなかつたものであることは多言を要しない。かような当然の事理に思を及ぼすことなく、均衡を云為するのは軽率のそしりを免れないもので、これを理由として無効説を反駁せんとするのは無意味といわなくてならぬ。

(二)閣省令第一号第九条第四項の立法趣旨を敍上のように解して同条項の意味を今少しく検討することとする。調査表の記載が不完全であるというのは調査表の提出者が調査表に記載すべき事項として法令で定められている事項を故意又は故意と同視すべき懈怠で充分且つ完全に記載しなかつたことからおこるのである。(覚書第一七項参照)それ故同項前段にいわゆる虚偽の記載又は事実をかくした記載とは故意で充分且つ完全に記載しないことを意味し同項後段にいわゆる調査表に記載されてない事由云々とは本来調査表に記載すべき事項ではあるが、故意でなく懈怠で記載されなかつた事項を指すものと解すべきである。そして同項前段即ち故意で虚偽の記載又は事実をかくした記載があるということだけで確認書の効力をないものとする理由はかような記載は調査表を提出する者が該当者と推定されることを免れようとするためにするのが通常であろうから、かような記載のある調査表は明らかに充分且つ完全という根本要件を全然欠如しているもので、これを資料としてした確認が正しいものといえないと推断され、またかような意図で不完全な調査表を提出するような者には、道義的責任上候補者たる位置を認むべきでないからである。これと異り後段は故意でなく調査表が完全でないという場合であるから、その不完全ということだけでその調査表を資料としてなした確認書を、いちがいに無効とするのは道義上酷に失する。だからその記載しなかつた事項が現実に覚書該当の理由となつた場合に限り充分且つ完全なる発表の懈怠あるものとして調査表提出者の責任とし確認書を無効とすることが、相当であるからである。かように後段の場合を解すると、当然に「また同様とする」という意味に前段の場合と同じ意味即ち確認書は交付の当初からその効力がないものだという意味に解すべきである。このことは(1)まず前段と後段との規定の文詞から見ても明らかである。即ち前段は無効とするという意味が確認書の交付のときからという意味だとしたら、また同様とするというからには、確認書の交付のときから効力なきものとするという意味だと解するのが当然である。(2)前段と比較すると記載すべき事項を充分且つ完全に記載しなかつた点はどちらも同じであつて、ちがうのは、前段は故意によるのであるが、後段は故意ではないが懈怠によるというだけである。どちらも調査表の不完全不充分という点において調査表提出者に責任のあることは両者共通である。(3)前段は記載しなかつた事項が覚書に該当する者として指定される事由であるかないかを問わず確認書は効力がないものとするのであるのに、後段は覚書に該当する者として指定される事由となつた場合に限り確認書が効力がないものとされるのであるから確認書の効力がないという時期の点からいえば、後段の場合は当初から、前段の場合は虚偽の記載又は事実をかくした記載が発見されたときから、という考え方さえできないことはない位である。だから、逆に後段の場合は覚書該当の指定のあつたときからだとし、前段の場合は確認書交付の当初からだということは条理上からも考えられない。(4)確認書を有する者が覚書に該当すると認められた(これは指定されたという意味に解する)ときは、その以後その者のもつている確認書は効力がないものとするということは特に閣省令第一号第九条第四項に規定する必要がない。ましてその規定が調査表に記載されてない事由による場合などという指定の理由を限局して規定する理由は毫もない。そのわけは勅令第一号第六条に「覚書該当者は公選による公職についてはその候補者となることができない。公選による公職の候補者について第四条の指定があつたときは、その者は当該候補者たることを辞したものとみなす」と規定して指定の事由を限局せずその効果を明定しているからである。(5)前段も後段も同じ意味である。換言せば前段が確認書を当初から効力のないものとする意味であるなら後段も亦確認書を当初から効力のないものとする意味だと解する根拠として閣省令第九条第一項にいわゆる別記様式(二)の「備考」「この確認書は、本人の提出に係る調査表に虚偽の記載があり若しくは事実をかくした記載があつたとき、又は調査表に記載されてない事由に因り覚書に該当する者と認められるに至つたときは、その効力がないものとする」の記載を引用することができる。現に本件館哲二に交付された確認書(乙第三号証)にも同一の記載がある。かような(1)乃至(5)の論拠で後段の場合のまた同様とするという意味は確認書の無効なことは当初からだと解するのである。

(三)ところがこの解釈は、どこまでも確認の瑕疵が確認の前から存在する事実を理由とするところに正当性が承認される。即ち(1)若し不記載の事項が調査表に当初から記載すべき事項でなく確認のあつた後に至つて追加され記載すべき事項となつたのであるか、(2)その不記載事項が確認された当時にはまだ覚書該当の事由とされていなかつたが確認のあつた後にその事由に追加されたのだということであるなら、この解釈は正当でなく、むしろ反対の解釈が正しかろう。そこで第一の点について考へて見るに調査表に記載すべき事項の何であるかは、覚書附属書B号とこれを受けて規定した閣省令第一号第七条第一項の別記様式(一)で明確にしかも懇切に規定してある。この規定は爾来何等の改正、変更がされていないことは顕著な事実である。だから調査表提出の当時従つて確認処分当時は解釈上調査表に記載すべき事項でなかつたが後になつてから記載すべき事項となつたという事態はおこり得ない。殊に本件の問題となつた館哲二が昭和一四年六月一九日から同年九月五日まで財団法人大日本警防協会副会長の地位にあつたことは同人の経歴として当初から記載すべき事項と解しなくてならぬことは、右調査表に関する覚書附属書B号、閣省令第七条第一項の別記様式(一)の定によつて明らかなところである。従つて第一点についてはこれ以上論及の要がない。換言すれば調査表に記載すべき事項の範囲については規定の解釈上当初から変動がないと断じてよいから、不記載による調査表の瑕疵は常に確認前から存在すると論断してよいということになる。第二の点は覚書該当の事由が追加改正されたかどうかの点であるが、これは難解の問題であるといつてよい。この覚書該当者はどういう者であるかについては覚書第二項に「「ポツダム」宣言ノ右条項ヲ実行スル為茲ニ日本政府ニ対シ左ニ該当シタル一切ノ者ヲ公職ヨリ罷免シ且官職ヨリ排除スヘキコトヲ命ズA軍国主義的国家主義及侵略ノ活発ナル主唱者B一切ノ日本ノ極端ナル国家主義的団体暴力主義的団体又ハ秘密愛国団体及其ノ機関又ハ関係団体ノ有力分子C大政翼賛会、翼賛政治会又ハ大日本政治会ノ活動ニ於ケル有力分子此等ノ用語ノ定義ノ本指令附属書A号ノ通」と規定しその第九項に「附属書A号ニハ本指令第二項実施ノ為日本帝国政府ガ公職ヨリ罷免シ且官職ヨリ排除スベキ者ノ種類ノ表ヲ掲グ」と規定し附属書A号には「罷免及排除スベキ種類A戦争犯罪人、戦争犯罪人容疑者トシテ逮捕セラレタル者但シ釈放又ハ無罪放免セラレタル者ヲ除クB職業陸海軍職員陸海軍省ノ特別警察職員及官吏」以下Fに至るまで大体具体的一義的に罷免又は排除すべき者を規定しGとして「其ノ他ノ軍国主義者及極端ナル国家主義者」の項に「一、軍国主義的政権反対者ヲ攻撃シ又ハ其ノ逮捕ニ寄与シタル一切ノ者二、軍国主義的政権反対者ニ対シ暴行ヲ使嗾シ又ハ敢行シタル一切ノ者三、日本ノ侵略計画ニ関シ政府ニ於テ活発且重要ナル役割ヲ演ジタルカ又ハ言論著作若ハ行動ニ依リ好戦的国家主義及侵略ノ活発ナル主唱者タルコトヲ明ニシタル一切ノ者」と規定している。これを受けて昭和二一年閣令内務省令第一号第一条に「昭和二一年勅令第一〇九号(昭和二〇年勅令第五四二号「ポツダム」宣言ノ受諾ニ基ク就職禁止、退官、退職ニ関スル件)(以下令ト称ス)第一条第一項ノ規定ニ基キ覚書該当者トシテ指定セラルヘキ者ノ範囲ハ別表第一号ニ依ル」と規定し別表において前記覚書A号に掲ぐるものを全部掲げている他に、C項の団体名、D項の団体名を一々列挙している。この別表は閣省令第一号第一条「昭和二二年勅令第一号(公職に関する就職禁止、退職等に関する勅令以下令という)第四条の規定により覚書該当者としての指定をすべき基準は別表第一の通りとする」という規定によりて大体同一内容の別表第一に改められた。そしてこの別表のG項(第七項)については別にG項審査判定基準と題するものが定められた。この基準がその後閣省令第一号の別表の改正によつて別表第一の内に併せ規定せられた。そしてその内容が以後数次の改正で変つているのである。そこで問題は覚書附属書A号には当初から今日迄何等の追加がないにもかかわらず右閣省令第一号の別表で定められた内容、殊にG項判定基準の内容には度々の追加がされたということである。そして追加されたG項判定基準を見るにいわば覚書附属書A号で示している抽象的な団体とその役職員に該当する具体の団体名とその役職員を列挙するとか、抽象的に示された公職を具体の公職名に変えたのに過ぎない。かように基準に列挙された団体とか公職者のみがA号に抽象的に示された団体や公職に属するのだと一応考えられないわけではないが、それかといつて基準に示されていない団体や公職者は絶対に覚書附属書A号に列挙の団体や公職に該当しないものだとはいえない。それは覚書附属書A号にいう団体や公職の意味範囲を閣令や省令で限定することは許さるべきでないからである。だから、いやしくも覚書附属書A号列記の団体なり公職なりに実質上該当する者は基準に列挙されていると否とにかかわらず覚書該当者として指定されるべき者であるといわなければならぬ。かように考えると、閣省令第一号の別表第一号の内殊にG項の判定基準に確認当時は挙げられてなかつたが、後に挙げられるに至つたということは、追放の事由そのものが実質的に追加されたというのではなく、只解釈適用の便宜の為に閣省令第一号で定められた基準に追加があつたというだけである。それ故基準に示されてない者はそれが本質上覚書附属書A号列挙の者に該当していても覚書該当者として指定されることはない者だということはできない。かように考えると本件の館哲二が調査表を提出した当時の閣省令第一号の別表で定めた基準中関係の部分について検討すると内務次官としては挙げてなく只各省次官とあるのみであるし、軍人援護会、大日本警防協会が新聞社雑誌社という範囲に属するとは明示されてなかつた。ところが二二年六月三〇日総理辞令内務省令第三号で明瞭に「(2)内務省、次官(下略)」(4)新聞社雑誌社(中略)団体の役職員(中略)(ロ)書籍及雑誌出版社会長副会長(中略)別表G項該当言論報道団体(中略)(ロ)書籍及び雑誌出版社(中略)二八、大日本警防協会(中略)五〇、軍人援護会(中略)八三、警察協会(下略)と列挙されたのである。だから六月三〇日の総理辞令内務省令で基準に追加された公職も雑誌社出版社の会長副会長社長副社長も当然に覚書附属書A号のG項に列挙してる者の何れかに属していたものであることを政府の解釈として表示したのにすぎないと見るを相当とする。これを要するに覚書に該当する者の範囲は覚書第二項と附属書A号とで定められていて、これには何等の追加も変更もない。只この範囲に具体の者がはいるかどうかを判断する基準として便宜上日本政府が定めたものに追加変更があつたに過ぎないということに帰する。従つて、調査表を提出した後該当の事由に追加はなかつたということに帰着し、第二点も問題とするに足らぬといわなくてならぬ。さすれば、調査表に記載しなかつた事項が調査表提出後基準とされたということは、却つてその事項が調査表提出前から覚書に該当の事由であつたことが確認されるにすぎないと言うべく、従つてその調査表に基づいて確認された場合にその確認書が当初から無効のものと解するのは閣省令第一号第九条第四項の法意に適合するものであるといわねばならぬ。

(四)かく論定すると館哲二が調査表に大日本警防協会副会長の職歴を記載しなかつたこと並にその記載しなかつた職歴と調査表に記載していた内務次官及軍人援護会長の職歴とをもつていたことが理由とされて覚書に該当する者として指定されたことは原審の確定した事実であるから、大日本警防協会副会長の職歴を記載しなかつたことが故意に事実をかくした記載に該当するといえるなら勿論のこと、そうでなくとも同人の有する確認書は当初から無効のものであるといわなければならぬ。されば同人の候補者届に添附した確認書の写は無効のものであるから、選挙長がその届出を受理し、同人を富山県知事選挙の知事候補者として告示したのは勅令第一号第八条並に本県選挙当時の規定である道府県制第七四条ノ七第五項の規定(現在は地方自治法第五三条第六項に相当する規定)に違背するものといわなくてはならぬ。ところが、選挙長は候補者届に添附された確認書の写が無効であるとして候補者届の受理を拒む権限がないという解釈を被上告人はとつているようである。しかしながら、選挙長は候補者届が提出されたときはその届出が選挙の規定に適合しているものであるかないかを審査し、若し適合していないときは、その届出を受理するを得ないものであることは、届出に関する条件手続を定めている規定と選挙長に届を提出すべき旨を定めている規定から、当然に生ずる効果である。詳言せば、知事選挙に関する法令において、知事候補者の届は、候補者たらんとする者が、覚書に該当しない者であることを内閣総理大臣が確認して交付した確認書の写を添附して選挙長に提出すべき旨並に確認書は調査表に虚偽の記載があり又は事実をかくした記載があるときは、その効力がないものとする。調査表に記載されてない事由により確認書を有する者が覚書に該当する者と認められるに至つたときも、また同様とする旨規定されている以上、選挙長は候補者届出を受理するに当つて、添附されている確認書の写が効力のない確認書の写でないかどうかを判断して、その届出を受理するかどうかを決せねばならないのは当然の条理である。(このことは、地方自治法施行令第六九条第二項の規定によつて、選挙長は候補者届に添附された供託証明書が有効のものかどうかを判断して右届出を受理するかどうかを決せねばならぬと同じ理論で説明ができる。又地方自治法第五三条第二項の規定で、推薦届出をする者が選挙人名簿に記載されている者であるかどうかを選挙長において調査し、記載されてない者と認めたときは、その推薦届出は受理すべきでなく、若し誤つて受理して候補者の告示をしたときは、その届出の受理と候補者の告示とを取消すべきものであることは昭和五年六月二〇日宣告の行政裁判所の判決で明かなところであつて、このことからも確認書の写の効力を選挙長は調査判断できるということが肯定される。)いうまでもなく、選挙長が確認書の写を無効なものだとして、候補者届を受理しないということは、確認処分そのものを無効だとするとか、覚書に該当する者として指定をするとかいう処分をするのではなく、全く別のことであつて、選挙長は只確認書の交付を受けた者が、その確認を求めるために、提出した調査表に、虚偽の記載又は事実をかくした記載をしたかどうか、調査表に記載されてない事由で覚書に該当する者と認められるに至つたかどうかという事実を調査認定するに過ぎない。これは勿論例外はあろうが大体においてそれ程複雑難解の事実に関する調査認定ではない。そして調査して事実があると認めると法令の規定でその確認書は当然に無効のものとなり、従つて選挙長はその写を無効のものとして取扱う外ないことになり、写を無効のものと取扱う外ないとなれば、その写を添附した候補者届は、確認書の写が添附されてないと同様その受理を拒否する外ないという結果になるのも当然の筋道である。選挙長がかような事実を調査し認定することを理論上可能とする根拠となるものに、昭和二二年勅令第二号(公職適否審査委員会官制)第六条、第七条及び閣省令第一号第五条第二項の規定並に道府県知事はその道府県の選挙管理委員会に候補者の調査表を送付するの行政上の取扱例を指摘することができる。又事実上可能であることはこれ等の規定によつて覚書に該当する者として指定された者又は該当しないと確認された者の調査表が公衆の閲覧に供せられる結果、選挙長はかような事実の調査認定について、公衆の協力を期待し得られることからも明らかである。現に本件の候補者館哲二の調査表には、虚偽の記載又は事実をかくした記載があるといつて、同人を富山地方検察庁に告発の手続をとつた者のあることが、選挙期日の四月五日から一六、七日も前の三月一八日頃の富山県の地方新聞に記載された事実がある。この一事に徴しても、かような事実の調査認定を選挙長においてすることは事実上不能に近い難事だとする説はあたらない。又選挙長にかような権限を認めると、確認書の交付を受けたにもかかわらず、選挙長の独断で候補者としての資格を剥奪されるという重大な人権の侵害を結果するから、選挙長にはかような権限を行使させるのは好ましくないという考方があるようであるが、これは選挙長のした調査認定が正当であるかないかは、選挙又は当選の効力についての異議、訴願、訴訟において再審査せられて、選挙長の誤つた権限の行使が是正されるべきであることを忘れている者の考方である。又選挙長のこの権限の濫用を恐れるのあまり選挙長にこの権限なしとするのは勅令第一号第八条第一項閣省令第一号第九条第四項の規定を全然無意味に終らしめるものであつて、覚書第一四項の精神を蹂躙するものとのそしりも甘受しなければならぬ。蓋し選挙長にこの権限なしと仮定すると、閣省令第一号第九条第四項で無効な確認書の写を添附して提出した候補者届を受理しても、その受理は選挙の規定に違背したものとはいえぬ。さればその届出の受理によつて、候補者たる資格が完全に与えられることとなり、その結果は確認書の写を候補者届に添附せよとの勅令第八条第一項の規定はこの限度において適用がないとおなじに帰するのみならずその者の得票は有効となりその得票数のいかんによつてはその者が当選者となり公選による公職の地位につくことを拒むに由ないこととなり、かような結果を容認することは覚書第一四項の精神と絶対に相容れないところであることはいうをまたぬからである。

(五)ところで一件記録によれば、本件選挙において知事候補者は館哲二の他に数名ありて、館哲二の得票数は一七八、九三一票、候補者加藤滝二の同票は一二〇、九六〇票、同大井義昌の同票は八四、九一六票、同保科治郎の同票は一〇、七六六票であつたことは明らかであるから、仮に館哲二が同選挙において知事候補者として参加しなかつたとしたら、同人の得票中他の候補者の得票に帰するものあることは想像し得られるが、その何票がどの候補者に帰するかは不明であるから、他の候補者中最多数の得票者である加藤滝二が当選者となるかその他の候補者が当選者となるかは不明である。だから本件選挙は選挙長が館哲二の候補者届を受理し、これを告示したために、選挙の規定に違反する事実が生じ、しかも選挙の結果に異動を来す虞ある場合に該当するものであるから、道府県制第七四条ノ一三(の規定によつて府県知事選挙に準用される)同第三五条(地方自治法第六七条)の規定によつて本件選挙は全部無効たるべきものといわねばならない。されば、本件選挙が有効であることを前提として館哲二の当選を無効にあらずと判断して、上告人の請求を排斥した原判決はこれを破毀すべく、原判決が是認した館哲二の当選を無効なりとする異議申立につき富山県選挙管理委員会のした決定並に同県知事選挙の選挙会が館哲二を当選者とした決定はいづれも取消を免れない。

裁判官井上登の補充意見は次の通りである。

私が多数説に合流したのには相当実際上の理由がある。実際上の結果が多数説の様に解した方がいいと思うのである。それは一方調査表に重要ならざる事項につき一、二の不実記載(条文にいう「虚偽の記載」及「事実をかくした記載」を含む以下同じ)があつたからといつて、それだけで当然確認書を無効のものとし、従つて当選無効の結果を発生せしめなければならないものとする必要は少しも無い様に思われるし他方却つてそうしない方がいい様に思われるのである。調査表に重要な事項の不実記載があれば昭和二二年勅令第一号第一六条によつて刑罰を受けるのみならず覚書該当指定を受けたと殆同様の結果を生ずるのだし又当選後においても審査委員会で其後の審査により所謂覚書該当者と認められれば内閣総理大臣は何時でも追放決定を為し得られるのだからそれで十分であろうと思う。刑罰又は追放決定を受ければ其時から当選した職を退けばいいので、当初から無効にする必要はない。当選訴訟において裁判所が判断する場合に付ていえば当初から無効だつたとしても選挙の場合は当選者が当選の時から無効と判断される迄の間其職にあつて為した行為は遡つて無効になるものではないので従つて将来に向つて職を退くことと初めから無効だつたということとは選挙の場合に関する限り実質上余り相違はないからである。又他方調査表に重要事項の不実記載もなく審査委員会で覚書該当者と認められることもない様な者は仮令調査表に重要ならざる事項につき一、二の不実記載があつたとしても其丈けで当選を無効としてしまう必要はない。却つてそれ丈けで当選が無効となる(或説によれば選挙そのものが無効となる)という様なことは多数選挙権者の意思に反することとなり選挙制度の精神にも反すると考えられるのである。(尚これは大した根拠でもないし、固より法の解釈は其制定者の意思に拘束されるものではないけれども施行令第九条の制定者たる内閣及び内務省では初めから多数説の結論と同様に解釈して居りそれに従つて訓令等も出しそれで今日まで通して来たものであることは記録上でも明らかである。そしてそれが何等の支障もなく実際上それがいいと思われる以上、それを強で覆す必要もなく其事実は尊重されていゝと思う。制定者の意思というものも法解釈の一つの資料たることを失うものではない。)

裁判官島保の意見は次の通りである。

昭和二一年一月四日附連合国最高司令官の覚書に該当する公務従事に適しない一切の者を公職から除去することは、「ポツダム」宣言の定むる条項を実行するため、連合国最高司令官から日本政府に対して命ぜられた重要な義務である。而してこれが実施は、事柄の性質上、公職に関係し又は関係せんとする一切の者から過去におけるその者の勤務の履歴、著述、演説その他公職適否の審査に必要な事項を記載した調査表を提出せしめ、右調査表の記載事項を審査の上その結果及びその他政府の知り得た一切の事項に基づいて行われるのである(前記覚書一〇項末項)。されば、調査表は右審査の最も重要な基礎をなすものであつて、若しその記載が真実に反するときには、実質上覚書に該当する者として公職から除去せらるべき者でありながら覚書に該当しない者と決定せられて公職から除去されず、ひいては「ポツダム」宣言の定むる条項に違反する結果を生ずる虞があるのである。それ故公職適否審査の結果覚書に該当しない者と決定せられることは、調査表の記載があくまで真実であることを前提とし条件とする。覚書第一七項及びこれが実施のための昭和二二年勅令第一号第一六条において調査表の虚偽記載等を処罰すべきことを規定しているのは右記載の真実を確保するがためであることは言うを待たない。昭和二二年閣令内務省令第一号(以下閣省令という)第九条第四項前段の規定は以上のような公職適否審査の本来の性質に由来する当然の規定であつて、公職適否審査の結果覚書該当者でないことを確認せられて交付された確認書であつても調査表に虚偽の記載があり又は事実をかくした記載があるときは、その確認及びこれに基づく確認書は確認の前提であり条件である事実を欠く結果当初からその効力のないことを明かにしたものである。

閣省令第九条第四項前段に当る確認書は、以上に説明したごとく当初からその効力がない。しかしながら、このことは公選による公職の候補者が届出に際して提出する確認書の写につき選挙長がその確認の実質に関して審査を遂げその無効を判定しうることを意味するものではない。けだし、選挙長は選挙の届出については形式的審査権を有するだけで実質的審査権をもたないからである。選挙長に実質的審査権のないことは衆議院議員の選挙について規定した昭和二一年勅令第一〇九号第六条第三項乃至第五項の規定からも窺われるのであつて、これらの規定は右勅令の改正規定である昭和二二年勅令第一号にはこれに該当する規定を欠くのであるが、その趣旨において変りがないものと解すべきである。されば、候補者から立候補の届出に際して適式な確認書の写が提出されれば、選挙長がこれを受理して告示することは選挙の規定に違反するものではない。

確認書の基礎たる調査表に虚偽記載等があつて確認書の無効であることを主張しようとする者は、当選争訟を提起して候補者の当選資格を争わねばならぬ。調査表に虚偽の記載等の事実があつたかなかつたかは終局において裁判所の確定判決によつて決定される。

虚偽記載等の事実が明かとなれば、ここに確認及び確認書は当初から効力のなかつたことが確定し、候補者はその候補者たる資格を欠いた結果その者の得た投票は無効となるものと言わねばならぬ。本件について、原審はその判決において、館哲二は昭和一四年六月一九日から同年九月五日まで財団法人大日本警防協会副会長兼理事であり昭和一三年六月二四日から昭和一四年九月五日まで財団法人警察協会理事であつたこと並びに同人が覚書該当者でないことを証明する確認書を得るために内閣総理大臣に提出した調査表に前記職歴の記載がなかつたことを確定しながら、右の職歴を記載しなかつたことは閣省令第九条第四項前段にいう「調査表に虚偽の記載があり又は事実をかくした記載があるとき」に該当しないものと判断している。しかしながら、調査表に記載すべき事項は覚書に該当する公務従事に適しない者として公職から除去すべきかどうかの審査すなわち公職適否の審査に必要な事項であつて、あくまで覚書自体に準拠しなければならぬ。原判決所論の基準は覚書の解釈にすぎない。

されば前記の職歴に関する事実が本件確認書交付当時の基準に該当しなかつた一事によつて調査表に記載することを要しないものと言うことはできない。ただ前記閣省令の条項にいう調査表の虚偽又は事実をかくした記載は故意にいずることを要件とするものと解すべきであるから、原審はこの点を審理して確定すべきであつたのである。以上の理由によつて、原判決を破毀し本件を原裁判所に差戻すべきものと考える。

裁判官藤田八郎の意見は次の通りである。

上告代理人清瀬一郎上告理由第一点及び第三点について。

本訴において、上告人が、館哲二の昭和二二年四月に行われた富山県知事選挙における当選の無効を主張する原因の要旨は、館哲二は、右選挙において、立候補の届出をするに際して、昭和二一年一月四日附連合国最高司令官の覚書に掲げる条項に該当する者でないことを証明する確認書の写を提出したのであるが、右確認書を得るために、同人が内閣総理大臣に提出した調査表には、事実をかくした記載があつた、即ち、同人はかつて、財団法人大日本警防協会副会長兼理事、財団法人警察協会理事であつたのに、調査表にこのことを記載しなかつたのである。しかるに、施行令第九条第四項(前文の用語例にしたがう)によれば、右のような調査表を提出して得た確認書は無効であるから、かかる確認書の写を受理して、館哲二を候補者として、これを当選人と定めた選挙会の決定は違法であるというにある。論旨も右施行令第九条第四項に「第一項又は第二項の確認書は、前二条の規定による調査表に虚偽の記載があり、又は事実をかくした記載があるときは、その効力がないものとする」とあることを根拠として右確認書は法律上当然に無効であると主張するのである。

おもうに、勅令第三条、第四条にいう「覚書該当者としての指定」は、前示最高司令官の覚書を履行するために、同司令官の承認を得て設けられた特別の機構並びに手続によつて(本件の場合について云えば中央公職適否審査委員会の審査を経て、これに基づいて内閣総理大臣が指定する)なされるものであり、従つて、この指定の効力を争うことも、また、もつぱら、特に定められた機構並びに手続(例へば公職資格訴願審査委員会に対する訴願等)によつてのみなされるものであり、これによらずしては、何人もその効力を争うことはできない。わが司法裁判所においても、その効力を否定する裁判をする権限のないことは、昭和二三年二月八日付連合国総司令部政治部の最高裁判所長官宛通牒の示すところによつて明らかである。しかして、このことは、いわゆる非該当の確認(勅令第八条第一項)についても同様であるといわなければならぬ。非該当の確認もまた、中央審査委員会の審査の結果に基づいて、内閣総理大臣が決定し、その該当者でないことを証するために、内閣総理大臣が確認書を交付するのであるが、(同条第二項)もともと、該当の指定と非該当の確認とは、たとえば刑事判決における有罪と無罪とのごとく、その結果において、黒白の差はあれ、前掲最高司令官の覚書に基づいて、好ましからざる人物であるかどうかを判別するという作用の本質には異るところはないからである。また、確認書は非該当の決定を証明する文書に外ならず、確認とその効力上の運命を共にすべきものである。であるから、確認または確認書の効力も、後に、権限ある機関によつて否定せられない限りは、何人もこれを争うことはできないものと解しなければならぬ。もとより、この種の行政行為についても、いろいろの瑕疵を包蔵する場合のあることは想定せられる。或は、指定または確認を無効ならしむる瑕疵のあることもあるであらう。しかし、これを裁定することは一に権限ある機関の専権に属するところである。本件において問題となつている施行令第九条第四項の場合も、確認書を無効ならしむる一つの場合として考えられるかも知れない。

しかしながら、一旦権限ある機関によつて、正式に交付せられた確認書は、たとい原判決の確定したように、これを受けるために提出した調査表に不実の記載がある等のことがあつて、かりにそれが実質的に確認書を無効ならしむる原因であるとしても、さらに、権限ある機関によつて失効せしめられるまでは、これを有効なるものとして、とり扱うの外はないのである。他の国家機関等において前記第九条第四項に則つて、総理大臣の正当に交付した確認書に対し、総理大臣の決定の基礎となつたところの中央審査委員会の審査の過程において、その資料たる調査表に不実の記載があつたからといつて、その確認書は法律上当然に無効であると主張することは許されないのである。これを決するものは一に中央審査委員会、内閣総理大臣等一連の権限ある機関であつて、前記施行令第九条第四項の規定のごときも、これらの機関が、その確認書を無効と決定することあるべき一の基準を示すものに過ぎない。調査表に記載もれの事項についても、いかなる程度の事項について、確認書を無効とするかどうかということは一にそれらの機関が右規定の示す基準に従つて裁量決定すべきところであつて、他の機関等が同項の規定を楯にとつて、その審査の内容にまで立ち入つて、確認書の有効、無効をかれこれと詮議することは許されないのである。裁判所と雖も、かかる理由に基づいて、確認書の効力を裁判上否定することは、その権限外である。(たとい裁判の主文においてでなく、その理由において、すなわち、主文のよつて生ずべき前提事項の判断としてもできない。このことは覚書該当指定の効力は、前に述べたごとく、いかなる段階においても、裁判上、これを否定することが許されないことと比照すれば当然に理解せられるところである。)若しも、権限ある機関によつて交付せられた確認書に対して、他から審査会の審査の過程に過ぎない調査表の欠陥を一々云い立てて確認書の効力を否定することが許されるものとしたならば、確認書の効力は動揺常なく、その安定を失い、さらでだに相当複雑多岐に亘る追放制度は、到底円滑にして統一ある運用を期することはできないであろう。されば選挙の場合においても、選挙長または選挙会が、以上のごとき理由に基づいて、確認書の効力を否定することのできないは勿論である。本件において、館哲二は、選挙後半年余を経た昭和二二年一一月七日になつて、覚書に該当するものとして指定を受けたことは原判決の確定するところであつて、これによつて、さきになされた非該当の確認、並びに確認書は当然に失効したのであるが、指定の効力は、既往にさかのぼることなく、指定のとき以後に生ずるものであるから、これに伴う非該当確認の失効ということも特段の事由のない限りは将来に向つてのみ生ずるものであつて、特に本件の確認または確認書が、権限ある機関によつて、既往にさかのぼつてその効力を否定せられたということは上告人も主張せず、原判決も確定せざるところであるから、右覚書該当の指定の時までは、本件確認書の効力は有効に存続していたものと解するの外はないのである。そもそも、当選訴訟は、選挙会において当選人を決定したその決定の効力を争い、当選人の当選の無効を主張するのであるから、もつぱら、その選挙会の決定当時を基準として、その決定の効力を判断すべきであつて、本件において、選挙会当時において、確認書の有効と目すべきことは前陳するとおりであるから、原判決が上告人の主張する事由によつては、本件当選を無効とすることはできない旨判示したのは、その判決理由中に首肯し難い点はあるけれども、結局において正当であつて、論旨はいづれも理由がない。なお上告人野沢良雄、同明野利吉の上告理由も、その理由のないことは、前述するところによつて、おのずから明らかである。

よつて上告を理由なしとして民訴第三九六条、第三八四条、第九五条、第八九条、第九四条に従い主文のとおり判決する。

この判決は少数意見者を除く裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介)

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